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連載小説「相模川恋唄」31-35

連載小説「相模川恋唄」31-35

水曜日なのにヒロカズが隣にいる。そして家へと向かっている。
和子はなんとなく不思議で、でも、安心していた。
会いたかったのは、私のほうだったのかもしれない。

「ヒロ君」
和子はヒロカズの手をきゅっと強く握った。そして続けた。
「シマアジ、塩焼きでいい?」
「うん。」
ヒロカズも手を握り返す。
そして、突然立ち止まり、和子を抱きしめた。
普段より心なしか力強いヒロカズの腕が和子の体を包み込む。
「ヒロ君、どうしたの?」
「わかんない。」
和子は戸惑いながらもヒロカズの背中に手を回し、二人はしばらく抱き合っていた。
ヒロカズ、何かあったのかな。
家の外でヒロカズがこんなことをするなんて、もちろん初めてのことだった。

それから家まで、二人の口数は少なく、それでもしっかり手をつないで歩いた。
途中から二人は手を握り直し、指と指がしっかりと絡みあっていた。
和子は歩きながら少しだけ長谷川の事を思い出していた。
あの大きくて優しい手。触れただけで心臓が縮み上がるほどドキドキしてしまって、包み込まれてしまう。忘れられない長谷川の手。
でも、こうしてつないでいるヒロカズの手も優しく心地よい。和子の手にすっと馴染んで、まるで一緒の手になってしまったような感じになる。そう、ずっと前から繋いでいたのはヒロカズの手だったのだ。

ヒロカズは家に着くなり、また和子をぎゅっと抱きしめた。
「かずちゃん」
「うん」
「ありがとう。」
「えっ」
和子はヒロカズを見上げた。
ありがとう?どうしてだろう。
ヒロカズは和子の目をじっと見つめて言った。
「ずっと会いたくて。」
和子の心臓が大きく脈を打つ。
ずっとって、まだ三日しか経ってないのに。土曜日には会えるのに。それでも会いたいって言ってくれた。
嬉しい。

和子は黙って目を閉じた。
ヒロカズのキスを待つ。
いつものように頬にくるかと思ったら唇にヒロカズのそれが吸い付いてきた。柔らかいキスから始まる毎回の儀式とは違い、今夜のキスは最初から激しかった。ヒロカズの舌が和子の歯の間から侵入してくる。いつもより何かを求めているかのように。
和子もそれに応えた。
いつもと違う事への戸惑いはなく、ただその激しさに飲み込まれていた。
長い長いキスをしながら、和子もヒロカズも自然とお互いの体に触れ始めた。頭、胸、腰、撫でて掴んで、抱き締めて。そのまま二人のセックスが始まっていった。
ベッドに倒れ込んだ時、突然和子は気になって声を出した。
「あ、シマアジ、」
「保冷剤入ってるから大丈夫。」
ヒロカズはそういって笑った。
激しいキスの間に混じり合ったお互いの唾液でその口元が光っているのが見えた。
和子はそれを見てたまらなくなり、ヒロカズの唇に吸い付いていった。
どうしてだろう、ヒロカズを今日の自分は激しく求めている。
互いの服を脱がせ始めたそのとき、ヒロカズが言った。
「かずちゃん」
「うん」
「ずっと、したかったです。」
「もう、してるじゃん」
ヒロカズは和子の頭をそっと撫で、また長いキスをした。
二人はそのまま、先週の土曜日のように濃厚な激しいセックスが始まった。
そして風呂に入り、そこでもキスを繰り返しお互いの体に触れ、二度目のセックスが始まっていた。夕飯を食べるのも忘れていた。
二人は激しくお互いを求めていた。土曜日まで待てない、それはきっと、同じ気持ちだった。
二度目のセックスの時、いつもとは違い、和子が上になりヒロカズが達した。
終えたあとの長いキスで、気持ちよさに混じって和子は切なさがこみ上げてきた。
なぜか、泣きそうだった。

二人はお互いの体を拭いて横になる。
身体から火照りが抜けていかず、汗がなかなか止まらなかった。
ヒロカズはうしろから和子を抱き締めた。いつもの姿勢だった。
しっとり濡れた汗が心地よい。
「ヒロ君」
「うん」
「シマアジ、どうしようか」
「うん、」
少しづつ二人の呼吸も落ち着いてきた。
「明日食べに来れる?」
和子は言った。
「うん。明日も来る。」
ヒロカズは優しくそう言うと、後ろから和子の耳にそっとキスをした。
和子はたまらず振り返った。
「ヒロ君」
ヒロカズの優しい笑顔がそこにあった。
「かずちゃん、好き。」
ヒロカズはそう言うと、和子の額にそっとキスをした。
好き。
その言葉が和子の心を溶かしていった。
好き。
ヒロカズはキスを続けた。頬に、唇に、首筋に、肩に、胸に、脇腹に。その口づけの音が暗い部屋に響いていた。太ももに、膝に、足に、ヒロカズは優しく全身にキスを繰り返す。
そのひとつひとつに「好き」が篭っていた。
ああ、大切にされている。
ヒロカズに想われている。
和子は全身でキスを浴びながら感じていた。どうしてこんなに近くにいたのに今まで気づかなかったんだろう。
最後、ヒロカズは和子の手を取り、手のひらに、手の甲に、指の一本一本にキスをした。
気がついたら和子は泣いていた。
ヒロカズの優しさが心地よく、その思いに感動していた。
「かずちゃん」
ヒロカズはそっと和子の頭を撫でた。和子は目を閉じる。
今度は顔全体にヒロカズのキスが降ってきた。右に、左に、右に、左に、額に。流れる和子の涙をヒロカズの唇が受け止める。
「泣かないで。」
ヒロカズの唇が和子の唇にかさなる。その優しい感触に和子の涙が更に溢れ出た。
ヒロカズが、愛おしい。
もう我慢できなかった。
和子はヒロカズの唇に吸い付き、舌を口の中に侵入させていった。ヒロカズもそれに呼応する。
長い長いキスだった。そして激しかった。二人の舌は絡み合い溶け合い、受け止めきれない唾液が和子の涙と混ざり、口の端から流れ落ちていた。それでも二人はやめずに続けた。
ひとしきりそれが続いて、ようやく二人の唇がゆっくりと離れた。
和子はヒロカズの目を見てはっとした。
ヒロカズも泣いていた。
「ヒロ君。」
「かずちゃん、かずちゃん」
ヒロカズが子供のようにくっついて、和子の胸に顔を埋めた。
和子はヒロカズの頭を撫で、抱きしめた。
「かずちゃん、好き。好き。」
ヒロカズは、繰り返した。
どうしてこんなに想われていたのに気づかなかったんだろう。こんなに近くにいたのに。
ヒロカズが、好きだ。
「ヒロ君、好きだよ。」
和子は言った。そして、繰り返す。
「好き。好き。ヒロ君、好き。」
ヒロカズの頭を撫でながら和子は繰り返した。ヒロカズの涙が和子の胸を濡らしていた。
それはとても温かかった。
「好き。」
「好き。」
二人はそのまま涙を流しながら、お互い、好きと言い続けた。和子はヒロカズを胸にしっかりと抱いて、ヒロカズは和子の胸に顔を埋めて。子供のようにヒロカズが小さく感じられ、温かく愛おしい。和子はヒロカズの頭にそっとキスをした。
「ヒロ君、好き、大好き。」
この愛おしい存在をずっと抱いていたかった。
しばらく頭を撫でていると、ヒロカズの嗚咽がいつしか寝息に変わっていった。
気づけば胸に流れ落ちていた涙も乾きつつあった。
和子も泣き疲れ、ヒロカズの寝息を聞きながらすっと眠りに入っていった。

あっという間に朝が来た。
こんなにぐっすりと眠ったのは久しぶりかもしれない。ここしばらく、長谷川の事を考えては寝つきが悪く、嫌な夢にうなされたりしていた。
起きたらヒロカズは既にいなかった。
テーブルの上に書き置きがあった。ヒロカズがそういう事をするのは珍しい。

『かずちゃん
シマアジは照り焼きでもいいです。』

普段殆ど見る事はないヒロカズの字は、かなり整っていた。
和子は二度読み返して微笑んだ。まったくもう、何で敬語なんだろう。

今日もヒロカズが来る。せっかくのシマアジもあるし、美味しい料理を作ってあげよう。
割り切った関係だと思い込んでいたが、お互いいつの間にか、なくてはならない、愛おしい存在になっていた。
ヒロカズのいない生活なんて考えられない。
きっと、気の迷いだったんだ、長谷川さんのことは。
自分にはヒロカズがいるんだから。

その日、出勤早々の朝のミーティング後、和子は長谷川に呼び止められた。
「和子さん、15時の赤坂の会議、行けます?」
「はい、大丈夫です。」
出張こそない仕事であったが、隔月くらいの頻度で子会社に赴いて会議を行うことがあり、今日はその日だった。
大抵、長谷川と和子が二人で赴く流れになっていて、それもいつも通りの会話、のはずだった。
「じゃ、14時半に下のロビーで。」
「はい。」
その瞬間、和子の喉の奥がドクンと脈打った。途端に胸がソワソワし始める。

あれ、何でだろう。
いつも通りの赤坂会議なのに。いつも通りの14時半にロビーで。
何で動揺してるんだろう。

和子は戸惑ったが理由はわかっていた。
長谷川さんと、二人で。二人っきりで。
途端に長谷川のメールの言葉が頭をよぎる。

「また、手をつないでもいいですか?」

まさか、まさかね。業務中の移動でそんなことあるわけがない。
しかし心のどこかでそれを期待してしまっている自分がそこにいるのを感じていた。
何やってるんだ、私。
長谷川さんを意識してしまうのは、単なる、気の迷い。
今夜はヒロカズが待ってるんだから。
頭の中でしっくりこない葛藤が繰り広げられそうだったが、それでも午前中はそれなりに多忙であり、悩む暇もなかった。

昼休み、いつものようにカップヌードルにお湯を入れて自席に戻ると、長谷川からメールが来た。

「和子さん
久しぶりですね、赤坂の会議。よろしくお願いします。
また鋭い発言で助けてくださいね(^^)」

気の迷い、のはずなのに、長谷川のメールを見ると勝手に胸が高鳴り出す。
何やってるんだ、まったく。

「長谷川さん
そうですね、今年まだ二回目のはずです。」

「和子さん
17時終了予定なので、多少巻いても直帰して頂いてよいですよ。」

「長谷川さん
よろしいんですか?ありがとうございます。
赤坂だと千代田線直通!で帰れるので助かります。」

よかった。早く帰れそうだ。
和子は嬉しかった。
今日はヒロカズが来る。時間があるからスーパーでいろいろ買って、凝った料理も作れる。
ヒロカズの喜ぶ顔が早く見たい。

「和子さん
そういえば、直通ですね。
では、今日は、一緒に帰りましょうか?」

和子は、息を飲んだ。
こみ上げる感情は嬉しさだった。長谷川さんと一緒に帰れるんだ。

だめだ、喜んではダメだ。
なんで喜んでるんだろう。
ダメだ、ダメだよ。
和子は必死に自分にダメだと言い続けた。
そうだ、もしかしたら長谷川さんは冗談で言ってるのかもしれない。

「長谷川さん
長谷川さんは直帰できるんですか?」

「和子さん
いやー、難しいですね(笑)
多分このままだと仕事溜まってるので直帰できません^^;
それにしても、同じ路線なのに帰りが一緒になったことないのが不思議ですね。」

和子は少しほっとした。
と、同時に何故か少し残念だった。どうしていらない期待をしてしまっているんだろう。
何をやってるんだ、一体。

「長谷川さん
仕事回せるなら自分がやりますので指示ください!
最近長谷川さん、残業多いみたいですけど普通に帰れてるんですか?」

「和子さん
さすがです!頼もしいですね。
ありがとうございます。それでは、どんどんお願いしちゃいますよ。
お察しの通り最近残業多いです、さすがに終電までとはいきませんが、日付変わりそうな時間に帰宅とか続いてますね。」

「長谷川さん
一度チームでタスク管理見直ししましょう。手伝います。
奥さんの為にも早く帰れるといいですね!」

奥さんの為にも。
書きながら和子は少なからず動揺していた。どうしてだろう。

「和子さん
遅い日は待たないで寝てしまってよいと言ってるので、うちのは、帰るといつも寝てます(笑)」

うちのが。
長谷川のメールが和子の動揺に拍車をかける。
うちのが。単語ひとつに心が揺れている。
ダメだ。やっぱり、ダメなんだ。
気の迷いなんかじゃないんだ、まだ意識しまくってしまっている。

「長谷川さん
いい旦那さんですねー、世の中には起きて待ってないと怒る男性もいるじゃないですか?」

大袈裟になってもいい、意識していないように振舞おう。

「和子さん
いやいや、寝てくれてるほうがこっちの気が楽なのでお願いしてるだけです。
和子さんだったらどうします?待ちます?寝ます?」

「長谷川さん
寝ちゃいます(笑)
起きてると相手にプレッシャー与えそうで、怖いです。」

「和子さん
さすが!そう言ってくれると思いました。
うちのは、本当は待っていたいタイプみたいです。まあ、寝てますけど。」

当たり前のような夫婦の約束についた。
そんな話題、長谷川には奥さんがいるから当然なのに、どうして動揺しているんだろう。
奥さんの存在が少しでもチラつくと、胸がちくりと痛くなる。
やっぱり、好きなのかな、長谷川さんのこと。
自分で、自分が分からない。
こんな気持ちになったのは生まれて初めてだった。

つづく
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テーマ : 自作連載小説
ジャンル : 小説・文学

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Author:kazko
Facebook,メルマガで連載している小説をまとめています。
詳しくは
http://kutsushita.in/
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