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連載小説「相模川恋唄」11−15

連載小説「相模川恋唄」11-15

土曜日、ということは奥さんはお仕事。二人きりで食事ってことかな。そうなのか。
突然食事に誘われた戸惑いよりも、約束をして会える喜びのほうが和子の心の中で勝っていた。

長谷川さんに、また海老名で、会えるんだ。
偶然じゃなくても、姿を探さなくても、会えるんだ。

少しだけ、指先が震えた。

「長谷川さん
ぜひ行ってみたいです。
よろしくお願いします。」

「和子さん
ありがとうございます。
では土曜日は、おデートということで!」

和子は思わす吹き出した。
おデート。
そんな言葉リアルに使う人、初めてかもしれない。長谷川さんのボキャブラリー、面白いな。

「長谷川さん
はい、おデートですね了解です(笑)
長谷川さん面白い単語使いますね(^^)
今週はガンガン仕事しますので、よろしくお願いします。」

「和子さん
おっ、さすがですね。
和子さんの場合は今週は、ではなく今週も!だと思いますが。(T_T)
では遠慮せず、いろいろ頼みますね!」

どうしてだろう、こうして毎日会社で顔を合わせているのに、土曜日会えると聞くと、いつのまにか楽しみで胸がいっぱいになっている。

それから週末までは、あっという間に過ぎていった。

土曜日11時半、海老名の改札で。
二人の週末が始まった。

土曜日は朝から良い天気だった。
和子は少し早めに家を出て海老名に行き、長谷川へのプレゼントを選んでいた。お酒を貰ったお礼だ。
ハンカチやネクタイだとありきたりな気がして、思いついたのは靴下だった。

長谷川さん、何色が似合うかな。
いつもかっこいい長谷川さんだから、きっと、どんな色でも似合うんだろうけど。

和子はさんざん迷った結果、水色の靴下を手にしていた。
そう、それは透き通った空の色。和子は実は水色が好きで、色でも何かと迷った場合はいつも最終的に水色に落ち着くことが多い。それは透き通った空の色。長谷川によく似合っていた。
もちろん、好きな色だから和子も水色の靴下を何足か持っていた。

お揃いになっちゃったな。ま、いいか。
同じ色の靴下。さほど色のバリエーションがあるわけではないのでそんなことはよくある話なのだが、長谷川とお揃いになれることが、少し嬉しくて少しだけ緊張した。

海老名の改札、11時半。
和子は10分前にそこにいた。

改札から人が吐き出されてくるたびに、和子は長谷川の姿を探していた。少しだけ期待して、少しだけがっかりして。その繰り返し。何度目かのがっかりをしていたその時、横から声がした。

「おはようございます。」

長谷川だった。

あっ、そうだった。
長谷川さん歩いてくるから改札から出てこないんだった。なんだ。和子は自然と笑顔になった。
「おはようございます。あのこれ、相模川のお礼です。」
小さな包みをそっと手渡した。
「ありがとう、何だろう?楽しみです。」
「靴下です。」
長谷川は突然笑い出した。
「靴下。靴下ですか。渋いですね!」
「えっ、そうですか?」
長谷川は何だか楽しそうだ。
こんな無邪気な顔、会社で見たことない。
「こういう時ってハンカチとか。」
「ハンカチも考えたんですけど、ありきたりな感じがしたのでいろいろ考えてたら靴下になっちゃいました!」
「和子さんらしいですね、ありがとう。」

ありがとう。
そう言う長谷川の笑顔がとても、優しかった。
自分だけに向けられている優しい長谷川の端正な笑顔。和子の胸がきゅっとなった。

長谷川の見つけたレストランまでは、歩いて15分。二人は並んで歩いた。
なんだかデートみたいだな、和子は思った。いやいや、ただ食事するだけだから。

すっかり春になり、よく晴れて暖かく、歩いていても、とても気持ちのよい日だった。
長谷川は時々立ち止まって、その付近に住んでる猫のことや、以前歩いた時に見た出来事などについて話してくれた。
毎週のように散歩している中、長谷川は、ほんの小さな裏通りや小さな出来事も楽しんでいるようだ。いきいきとして話すひとつひとつのエピソードが微笑ましくて、面白かった。

酒造のレストランだから和食かと思いきや、その店はフレンチの創作料理がメイン。人気があるようで満席だった。
今日のランチは鶏のチーズ焼き。こんがり焼けたいい香りがお店に広がっていた。
「地ビールもおいしいらしいんですけど、和子さん、お酒飲みます?」
昼間からビール。休日の醍醐味だ。
「勿論いただきます。」
「やっぱり。和子さんはそうでなくっちゃ。じゃあ自分も飲みます。付き合いますよ、」
「長谷川さん本当は自分が飲みたかったんじゃないですか?」
「あっ、、、バレました?」
長谷川はいたずらっぽくはにかんだ。

料理もビールもとても行き届いた店で、和子も長谷川も会話がはずんだ。
そして和子がパンをちぎっていたときだった。和子の手をじっと見つめた長谷川が突然言った。

「和子さん、手、かわいいですね。」

「えっ」
突然すぎて驚いた和子は、咄嗟にテーブルの下に手を隠してしまった。
「あ、すいません」
和子はドキドキしながらそう言うと、ゆっくりとまたテーブルの上に手を出した。
和子は手をかわいいと言われたことは今まで一度もなかった。指はあまり長くなく、毛深いし肌は荒れ気味。いきなり長谷川に褒められて恥ずかしかった。

「ちょっといいですか?」

長谷川はそう言いながら強引に和子の手を取った。
そして自分の手のひらと、そっとくっつけた。

あっ、、
和子は拒む隙もなかった。

「和子さん、手、小さいんですね?かわいいなあ」
長谷川の大きな手、その手のひらに収まりそうなくらい和子の手は小さかった。
こんな風に誰かと手の大きさを比べるなんて、ものすごく久しぶりのことだ。長谷川の手の感触に、和子の胃のあたりがドクっと熱くなった。
長谷川さんの手のひら、優しいな。
「いや、長谷川さんの手が、大きいですよ、」
和子はようやくそう言うと、手を引っ込めてパンに戻った。
長谷川の手のひらの心地よさに、このままくっつけていたいと少しだけ思っていた。
ダメダメ、そんなことしちゃ。
なにより手に汗をかいてしまいそうで、あまり長く触れていられなかった。
「そうですか?」
「そんなに大きいと携帯とか打ちづらいことありません?」
「あー、苦手です携帯のメールとか。」
長谷川は苦笑した。
和子はまだ鼓動がおさまらなかったが、会話を続けた。
「私も携帯メールあんまり得意じゃないです。そういえば長谷川さん、パソコンは凄いスピードで打ってませんか。」
「実はノートパソコンもキーボード小さくて打ちづらいです、会社だと外付けのキーボードつけてるんですよ。」
「あ、あのゴツいやつですね!」
「そうそう、もうB5ノートしか支給されないの、困っちゃいます。」
「A4のほうがいいですよね、B5はモニター小さいし。」
長谷川は確かに職場で、テンキー付きのキーボードを繋いで使っていた。

あれにはそんな理由があったのか。
何事にも器用なイメージの長谷川さんなのに、携帯メールが苦手なんて。ちょっとかわいいな。

「和子さんは手が小さくて困ったことありませんか?」
「楽器とかスポーツとかでは若干不利ですけど、日常生活ではそんなにないですかね。」
「瓶の蓋とか大丈夫?」
「あー、時々つらいです。なめたけの瓶開けるの辛いです。家に男の人ほしいです。」

そう言いながら、和子はヒロカズのことを考えていた。
二人でいる時、瓶の蓋はヒロカズがいつも率先して開けてくれるし頼めば力仕事も進んでやってくれる。ウィークデイに溜まってた家事もそれとなく手伝ってくれる。料理もすべて和子任せではなく手伝ってくれたりもする。いつも、ヒロカズはとても心優しい。
男の人がいなくてもヒロカズがいてくれれば困ることはない。
でも、和子は今日も、ヒロカズの手がどんなだったか思い出せない。毎週のようにセックスをして、手を繋いで眠っているのに、よく頭を撫でてくれるのに、ヒロカズの手が思い出せない。

「なめたけ!たしかに固いですよね!」
「そうなんです、だからもう、なめたけは、瓶に頼らないで自分で作ったりしてますよ。」
「凄いですね!食べてみたいです。」
「いやいやいや、煮るだけなんで簡単ですよ。」

パンやチキンを食べながら、続きのビールを飲みながら、さっきの長谷川の温かくて優しい手の感触がいつまでも手に残っていた。

ランチの後、二人は海老名の駅に戻り、いつもの酒屋で同じワインを買った。
長谷川は海老名に来るときは徒歩だが帰りは電車。別々のホームに二人は降りて行く。

「また、月曜に」
手を振る長谷川。
和子も笑顔で手を振った。

あっという間に月曜日がやってきた。

「和子さん
靴下ありがとうございました。好きな色でした。」

「長谷川さん
水色、お好きなんですか?私も実は好きなんです。喜んでいただけてよかったです。
それにしても、美味しかったですね、ビールもチキンも」

「和子さん
美味しかったですね!
また行きましょう!
ところで、なめたけのレシピ教えてもらえませんか^_^」

「長谷川さん
なめたけですか!
そんなレシピといえるほどのものが無いです。えのきを、醤油とみりんで煮るだけです。」

「和子さん
えー、簡単なんですね?
でも分量とか難しいんじゃないですか?」

「長谷川さん
分量ですか?
気にしたことないです(-_-)。
適当に味見しながらやって大丈夫ですよ。」

「和子さん
わかりました、今度やってみます。
うちのが、なめたけ好きなんですよ。」

「長谷川さん
よほどのことがなければ失敗しませんよ。
ぜひ奥さんに作ってあげてください!」

気づけば二人の共通の話題が、先週より増えていた。

和子はいろいろ気になった。
靴下のこと、奥さんになんて言ったんだろう。
私と食事したこと、奥さんは知ってるのかな。
あの店、奥さんと行ったりするのかな。
いろいろ頭を巡っていたが、もちろん聞くことはできなかった。

「和子さん
そういえば土曜日のワイン、どうでしたか?
正直もう少し酸味が欲しいなと、思いました。うちのは飲みやすくて気に入ってましたが。」

「長谷川さん
ちょっと甘すぎでしたかね。辛めの麻婆豆腐には、そこそこ合ってました。
奥さん、飲みやすいお酒が好きなんですか?」

「和子さん
あんまり渋いのは好きではないみたいですね。それでもお酒自体には強いので何でもよく飲みますよ。
でも、和子さんに比べたら弱いです(笑)」

普段職場であまり家庭の事は話さない長谷川だが、和子の質問には答えてくれる。
なんとなく行間が楽しそうで、和子は自然と笑顔になった。
いいな、奥さん。
長谷川さんに愛されているんだな。
と、同時に、喉の奥が少しだけちくっとした。

「長谷川さん
いやいや、そんなに強くないですよ(笑)」

「和子さん
そうですか?ではそういう事にしますか(笑)
そういえば、和子さんは毎週、買ったお酒一人で飲んでるんですか?」

和子の息が一瞬、止まった。
どうしよう。
本当は毎週ヒロカズと二人で飲んでいる。でも、ヒロカズとの関係が理解されるはずもない。

「長谷川さん
たまに友達と飲みますがだいたい一人です。土日二日間かけて一本開ける感じです。」

「和子さん
なんだ、てっきり彼氏さんと飲んでるのかなって思ってました。
一人のお酒も楽しいですよね!結婚してからなかなか縁がないですけど。」

「長谷川さん
彼氏、いませんよ(笑)
ご夫婦でお酒、いいじゃないですか。ひとり酒に慣れてしまうとなかなか想像できません。」

和子の指が震えた。
いくつか嘘をついてしまった。
でも、ヒロカズは彼氏ではない。

「和子さん
お一人でしたか。和子さん魅力的な女性なのに勿体無いですね。
では!またお食事付き合ってくださいね!パフェでもいいです。」

「長谷川さん
魅力、ないですよー。
お食事はいつでも誘ってください。土曜日はそんなわけで、暇なんです。」

また長谷川さんと食事できるのかな。社交辞令かな。
期待感、そして嬉しさと、少しの嘘への後ろめたさが心の中で渦巻いていた。

「和子さん
ありがとうございます!
和子さんと行ってみたいお店、海老名にまだまだ沢山あるんですよ!
またお誘いするんでよろしくお願いします。」

長谷川は意外と本気のようだった。
いいのかな。
和子は反射的に顔をあげて長谷川を見た。
いくつかデスクを挟んだ斜め向かい、いつものように昼休みの消灯で薄暗い中、ディスプレイの光に照らされた長谷川の端正な顔。
片手で焼きそばパンを掴んで食べている。
おっきな手だな。
その手の優しくて温かい感触がよみがえってきた。どうしてだろう、数秒しか触れていないのにはっきり思い出せる。

もっと触れていたかったな。

和子は少しだけ思い、慌てて頭の中で取り消した。
そして、長谷川のその美しい顔立ちに見惚れてしまいそうになり、慌てて視線をそらした。

「長谷川さん
こちらこそよろしくお願いします。
それはそうと、今日は焼きそばパンですか?
長谷川さん、甘くないパンも食べるんですね(^ ^)」

「和子さん
たまに食べたくなるんです、焼きそばパン^^;お恥ずかしい。」

「長谷川さん
わかります(笑)たまに食べると安心しますよね。」

「和子さん
わかりますか!そうですよね!
和子さんは今日もカップヌードルですか。
カワイイ手で器用に箸使ってますね!」

和子の胸がギュッとなった。
また、手を褒められた。
こんな不恰好な手を。
この手をほめてくれる人がいるなんて。

「長谷川さん
いえいえ、大人ですから(笑)
箸くらい普通に使えますよ。
今日のカップヌードルは同じように見えて新製品です。期間限定らしいです。限定って言葉に弱いんですよ、、」

「和子さん
へー、和子さんも限定に弱いんですね。奇遇ですね、自分も弱いです(笑)
駅の改札前で売ってるシュークリームとかドーナツとか、限定って書いてあると迷わず買っちゃったりして^^;」

長谷川さん、駅でシュークリーム買うのか。
思わず和子が顔をあげると、こちらを見ている笑顔の長谷川と目が合った。

かっこいいな、もう。
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テーマ : 自作連載小説
ジャンル : 小説・文学

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kazko

Author:kazko
Facebook,メルマガで連載している小説をまとめています。
詳しくは
http://kutsushita.in/
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